悲劇の精磁会社
 賞美堂本店の現在の社長は、蒲地桃子さんだが、前社長は会長の弟、桃子さんのおじさんにあたる蒲地孝典氏だった。
 孝典氏は、私が佐賀滞在時、アートギャラリー賞美堂という会社の担当をしていた。同社は、欧米諸国に輸出された古伊万里などを買い戻すビジネスをしていた。栗田美術館(足利)、ハウズテンボス(佐世保)などで、古伊万里の大花瓶などをご覧になった方がいるだろうが、あのような大物の逸品がかなりの数、孝典氏の手によって、「里帰り」しているはずだ。
 孝典氏は、古伊万里を含む過去の全盛期の有田焼に強い関心をいだき、研究もされたようで、賞美堂の社長を退任後、『幻の明治古伊万里 悲劇の精磁会社』(日本経済新聞社、2006年)という本を著された。
 精磁会社とは何か。有田には、明治以降、会社形態で作陶し現在まで続く香蘭社、深川製磁という2つの伝統的企業がある。香蘭社の創業が明治8年だが、12年にそこから分離独立したのが精磁会社である。名工を集め、ヨーロッパの製陶技術・設備を取り入れ、精緻で本格的な洋食器を製作した。しかしわずか10年、志半ばでこの会社は終わってしまう。
 さて、話はここで終わらない。当ギャラリーで昨年から扱いを始めた宝寿窯、山本文雅さんの個展が、先日六本木であったので出かけた。話題のミッドタウンのすぐ隣に、ひっそりとある2階建ての木造建築がそのギャラリー、GALLERIA645である。山本さんの作品を見た後、内部を見渡すと「幻の明治古伊万里、精磁会社復刻プロジェクト」として、重厚な作品が並んでいる。
 店主の西城鉄男さんにお話をうかがった。西城さんは元々ジャーナリズムの関係の方のようだ。焼き物をやりたくて、有田窯業大学校に入学した経歴。精磁会社の作品を知り、その復刻を思い立ち、蒲地孝典氏らと一緒に、精磁会社のディナーセットなど10数種類の食器を、忠実に再現した。世の中には、びっくりするようなことをやり遂げる人がいるものである、
 初めて見る精磁会社製品は、その絢爛さ、深み、精巧さなど、現代の製品とは比べ物にならない。
 ご興味のある方は、問い合わせてみてください。http://www.gold-imari.co